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遺言書の役割と作成方法

遺言書の効力


遺言書の法的効力

 遺言書は、被相続人の最終的な意思を明文化する法的な文書であり、相続における財産の分け方を自由に指定することができます。法定相続分にとらわれず、たとえば「長年介護を担ってきた次男に多めに財産を残したい」といった希望も、遺言書によって具体的に実現することが可能です。


遺留分との関係

 ただし、遺言書で自由に財産を配分できるとはいえ、他の相続人の最低限の権利である「遺留分」を侵害する内容を含んでいる場合には注意が必要です。
 たとえば、すべての財産を特定の子ども一人に相続させるような遺言があった場合、他の相続人は「遺留分侵害額請求(減殺請求)」を行うことで、法定相続の一部を取り戻すことができます。


円滑な相続への影響

 遺言書は、相続人同士のトラブルや感情的な対立を未然に防ぐための有効な手段です。相続財産の分配だけでなく、相続人の廃除や非嫡出子の認知といった、戸籍や相続関係に関わる重要な事項まで意思を反映させることができます。
 たとえば、生前に関係が悪化していた子を相続人から除外したい場合には、遺言でその意思を明示し、家庭裁判所に廃除の申し立てを行うことで、法的に対応が可能となります。
 一方で、内容が極端であると争いの原因になることもあります。


遺言執行者の指定

 遺言書には、相続財産の分配内容だけでなく、「遺言執行者」を指定することも可能です。遺言執行者とは、遺言に記載された内容を実際に実行するために、法的な権限を持つ人物のことを指します。未成年者や破産者でなければ、相続人の一人を選任することもできます。
 遺言執行者は、不動産の名義変更や預貯金の払い戻し、株式の移管など、相続に伴うさまざまな手続きを相続人に代わって進めることができます。


自筆証書遺言と公正証書遺言の違い


自筆証書遺言のメリットと注意点

 自筆証書遺言は、すべてを本人の手で書く形式の遺言書で、費用をかけずに手軽に作成できる点が大きな特徴です。たとえば、高齢の方が思い立ったときに自宅で書き残すことができ、遺したい思いをすぐに形にすることができます。
 しかし、自筆証書遺言にも一定の形式は求められており、日付や署名の欠落、パソコンでの作成、一部の記載が他人の筆跡になっているなど、形式に不備があると無効になる可能性があります。
 また、作成者が高齢である場合には、認知症などの影響により「遺言能力」が問われるケースもあります。たとえば、遺言作成当時の認知能力に疑義が生じれば、相続人同士で争いに発展し、筆跡鑑定や医療記録の確認といった手続きを経ることもあります。


公正証書遺言の信頼性

 公正証書遺言は、公証人が関与して作成される公的な遺言書です。内容や形式について法律に沿って確認されるため、法的な有効性が非常に高く、後に無効とされるリスクがほとんどありません。
 たとえば、遺言者が将来的に認知症を発症するおそれがある場合でも、公証人が作成時点で意思能力を確認した記録が残るため、遺言の信頼性が確保されます。こうした記録は、相続人間でのトラブル防止にもつながります。
 公正証書遺言を作成するには、証人2名の立ち会いが必要であり、通常は公証役場で手続きを行います。作成には手数料がかかるものの、公証人の確認を受けながら進められるため、形式的なミスがなく、将来の相続をよりスムーズに進めやすくなります。


遺言公証の手数料(2025年)
相続財産の価額 公証人手数料(税込)
100万円以下 5,000円
200万円以下 7,000円
500万円以下 11,000円
1,000万円以下 17,000円
※自宅や病院などで作成する場合は、別途出張費(公証人の日当+交通費)がかかります。
※正本と謄本の交付は「1枚」につき250円費用がかかります。

 不動産や株式など、登記や名義変更が絡む財産の指定では、公正証書の方が手続きがスムーズになる傾向にあります。自筆証書遺言も、近年「法務局での保管制度」が導入されたことで利便性が向上しましたが、それでも遺言内容の正確性や実現性の面では公正証書に劣る場面があります。


遺言書に記載すべき内容と注意点


遺言書の必須事項

 遺言書に必須なのは「誰に何を相続させるか」という内容です。たとえば、「長男に土地を相続させる」だけでは不十分で、「〇県〇市〇番〇号の土地を〇〇に相続させる」といったように、財産の特定と相続人の正確な氏名が必要です。住所は住居表示の住所ではなく、固定資産評価証明書の住所を用います。


遺留分への配慮

 遺言書を作成する際に特に注意したいのが、「遺留分(いりゅうぶん)」への配慮です。遺留分とは、法定相続人に法律で保障された最低限の取り分を指し、これを侵害する遺言内容は、後々のトラブルにつながる可能性があります。
 たとえば、「すべての財産を長女に相続させる」といった記載をした場合でも、配偶者や他の子どもには遺留分が認められているため、「遺留分侵害額請求」(いわゆる「取り戻し請求」)を受ける可能性があります。
 相続を円滑に進めるためには、遺留分を考慮した財産の配分や代償金の設定など、事前の調整が重要です。感情的な対立を避けるためにも、法定相続人全体の権利を意識したバランスのある設計が求められます。


付言事項

 また、付言事項を活用することで、相続人間の理解を得やすくなります。たとえば、「誰々に多く遺すのは、長年何々をしてくれたからです」といった説明があることで、他の相続人が感情的に反発するリスクを軽減できます。付言事項に法的効力はありませんが、トラブルを防ぐ効果は期待できます。


遺言書の例
記載事項 文面の例
遺言者の氏名・生年月日 私は、〇〇 〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)である。
遺言作成の意思表示 本遺言書は、私の自由な意思に基づき作成するものである。
相続財産の分配 私の所有する〇県◯市の不動産は、長男・〇〇 〇〇に相続させる。
遺贈の指定 私の預金口座にある金〇〇万円は、甥の〇〇 〇〇に遺贈する。理由:長年にわたり介護をしてくれたため。
相続人の廃除・排除 次男・〇〇 〇〇を相続人から廃除することを希望する。理由:長年にわたり虐待があったため。
遺言執行者の指定 本遺言の執行者として、弟の〇〇 〇〇(〇県〇市在住)を指定する。
日付 令和〇年〇月〇日
署名・押印 〇〇 〇〇(印)

検認と公正証書化の手続き


遺言の検認の流れ

 遺言書の保管方法は相続時の手続きを左右します。自筆証書遺言を家庭内で保管していた場合、相続人は家庭裁判所で検認を受ける必要があり、手続きには書類準備の手間や、1〜2ヶ月の期間がかかります。
 検認は年間2万件弱行われています。


検認の流れ

STEP1: 家庭裁判所への検認申立て

 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、検認の申立てを行います。

 相続人全員の戸籍謄本や遺言書の原本など、必要書類の提出が求められます。

STEP2: 検認期日の通知と検認の実施

 申立てが受理されると、家庭裁判所から相続人全員に検認期日の通知が送付されます。

 検認当日は裁判官の立会いのもと、遺言書を開封し、内容や形式が確認されます。

STEP3: 検認調書の作成・手続き完了

 検認が完了すると、家庭裁判所によって「検認調書」が作成されます。

検認調書の効力

 この調書は遺言執行の「証拠」となり、遺言に基づいた相続手続きが可能になります。


 検認は自筆証書遺言などを家庭裁判所が形式的に確認する手続きで、遺言の有効性までを担保するものではありません。
 遺言の有効性が争われた場合には、民事訴訟(遺言無効確認訴訟など)を通じて最終的に裁判所が判断することになります。


遺言の公正証書化の流れ

 遺言書の検認が被相続人が亡くなった後に行われる手続きであるのに対して、公正証書化は被相続人が存命中に行う手続きです。
 被相続人の意思表示を確認して公証役場で作成するものになり、遺言の効力はかなり高くなります。
 公正証書遺言は年間10万件以上利用されています。なお、65歳以上で亡くなられる方は年間100万人前後ですので、概ね1割くらいの方が公正証書遺言を作成されているという事になります。


公正証書化の流れ

STEP1: 公証役場への事前相談

 まず、公正証書遺言の作成を希望する旨を公証役場に連絡し、事前相談の予約を行います。

 相談では、遺言の内容や必要書類について確認を行い、公証人の指示を受けます。

STEP2: 遺言内容の準備と証人の手配

 遺言に記載したい内容を整理し、遺言者の意思を明確にしておきます。

証人について

 作成時には証人2名が必要になります。公証役場で手配することも可能です。

STEP3: 公正証書遺言の作成・署名押印

 公証役場にて、公証人が遺言者の意思を確認しながら内容を口述・作成します。

最終確認と署名

 作成された遺言の内容を読み上げ・確認し、遺言者および証人が署名・押印を行って完成します。


法務局の遺言保管制度

 法務局の遺言預かり制度(自筆証書遺言書保管制度)は、遺言書を法務局に預けて保管する制度です。本人確認と形式確認を経て保管されるため、相続後の検認が不要で、費用も安く手軽に利用できます。


自筆証書遺言書保管制度
項目 内容
用意するもの ・自筆証書遺言書(自筆で書いたもの)
・本人確認書類(マイナンバーカードなど)
・収入印紙(3,900円分)
・保管申請書
費用 1通あたり3,900円(収入印紙で納付)
申請方法 遺言者本人が法務局に事前予約のうえ出頭し、申請して預ける
注意点 ・内容はチェックされない(押印があるか等の形式確認のみ)
・保管後の内容変更には新たな遺言書の作成が必要
・死亡後は相続人が保管証明書を請求可能
メリット ・紛失や改ざんのリスクがない
・家庭裁判所の検認が不要
・比較的安価で手軽

遺産分割協議書

遺産分割協議書の公正証書化


私文書型と公正証書

 遺産分割協議書は、相続人間で遺産の分け方を決定し、法的に記録する書面です。この協議書には「私文書」と「公正証書」の2種類の作成方法があり、それぞれに特長と前提条件があります。
 預金凍結を解除する為に作成する場合などは、私文書で問題ありませんが、相続人同士の間にトラブルを抱えているような場合などは、公正証書化を行った方が安全な場合もあります。


私文書と公正証書の違い
比較項目 私文書 公正証書
作成者 相続人自身で作成 公証人が関与して作成
署名・押印 相続人全員の署名・実印が必要 公証役場で公証人の立会いのもと署名
印鑑証明書 全相続人分を添付 同様に全員分が必要
法的証明力 署名の真正性が争われる可能性あり 公文書として証明力が高い
費用 原則無料(公証役場の関与なし) 公証人手数料がかかる
トラブル時の強さ 裁判で証拠として弱いことがある 裁判でも強い証拠能力を持つ
主な利用場面 相続人間で信頼関係がある場合 相続人間で争いが懸念される場合

遺産分割協議書に必要なもの

 遺産分割協議書は、銀行口座からの凍結解除の他、その他の相続手続きで必要となる書類ですが、通常は用途に応じて他の書類と組み合わせる事で有効な書類として扱われます。


    遺産分割協議書と併せる書類
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで):相続関係の証明に必要
  • 相続人全員の戸籍謄本:法定相続人であることを確認するため
  • 相続人全員の印鑑証明書:協議書への実印押印とともに必要
  • 被相続人の住民票の除票または死亡届出済証明書:死亡の事実の証明
  • 相続財産の一覧表:預金・不動産・株式などの内容を明確にする
  • 不動産の登記簿謄本:不動産の名義・所在などを確認
  • 固定資産評価証明書:不動産の評価額確認に必要
  • 預貯金の残高証明書または通帳コピー:銀行口座の情報確認

遺産分割協議の作成


遺産分割協議の参加者

 遺産分割協議に参加するのは原則として「法定相続人」に限られます。ですので、亡くなった被相続人に配偶者と子1人がいる場合は、参加者は2名だけという事になります。
 法定相続人は2親等までの親族が基本ですが、第一順位(子・孫の卑属)、第二順位(親・祖父母の尊属)、第三順位(兄弟)と進んで行った場合に、第三順位の兄弟が亡くなっている場合は、その子として甥や姪(3親等)が代襲相続者として分割協議に加わる場合があります。


遺産分割協議の流れ

 法定相続分と遺言書の内容を踏まえながら、協議をして各人の相続分を決めていきます。
 なお、配偶者には、「配偶者居住権」という居宅の不動産を相続しなくても、そこに住み続けられるという権利が認められているため、金銭を優先的な相続財産にすることも可能です。


遺産分割協議の順番

相続人の確定

被相続人の出生から死亡までの戸籍を用意して法定相続人を確認します。また、遺言で遺贈を受けた第三者は原則として相続協議には加わりません。

相続財産の調査・整理

預貯金、不動産、株式、負債など、すべての財産を洗い出します。有価証券等は取得価格ではなく時価で金額を確認し、不動産は登記事項証明書や評価証明書などで確認します。この際、遺贈分は差し引きます。

相続人全員での協議

すべての相続人が参加し、財産の分け方を話し合って決定します。不動産や預金など、それぞれの分割内容を明確にします。相続放棄した人は協議には加わりませんが、家庭裁判所で発行する相続放棄申告受理証明書を、他の相続人の為に用意する場合があります。

協議書の作成

協議の内容を遺産分割協議書として書面化します。相続人全員が署名・実印を押印し、印鑑証明書を添付します。

名義変更・登記・申告

協議書をもとに不動産の相続登記や預金の名義変更を行います。必要に応じて税務署への相談や相続税申告を行います。


遺産分割協議書の例

被相続人 〇〇 〇〇(昭和〇年〇月〇日生、令和〇年〇月〇日死亡) の遺産について、相続人全員が協議の上、以下の通り遺産分割することに合意した。

第1条(相続財産の概要)

  • 不動産:〇県〇市〇町〇丁、地番〇ー〇、建物付
  • 金融資産:〇〇銀行〇〇支店 普通預金口座(口座番号××××)
  • その他動産:自動車(〇〇 〇)

第2条(分割内容)

  • 相続人 甲 は、金融資産のうち〇〇万円を取得する。
  • 相続人 乙 は、上記不動産および金融資産のうち〇万円を取得する。
  • 相続人 丙 は、自動車を取得する。

第3条(配偶者居住権の取得)

甲は、被相続人○○ ○○が所有していた下記建物について、終身にわたり無償で使用し、居住する権利を取得するものとする。

〇県〇市〇町〇丁、地番〇ー〇 構造:木造2階建 床面積:〇〇.〇㎡

第4条(残余財産)

本協議書に記載されていないその他の遺産は、相続人 甲 がすべてを相続するものとする。

第5条(合意の確認)

上記内容について、相続人全員が自由な意思に基づき協議し、異議がないことを確認のうえ、本協議書を作成する。

令和〇年〇月〇日

相続人 甲 住所:〇県〇〇市〇〇町1-1-1

署名:____________ 印

相続人 乙 住所:〇県〇〇市〇〇町2-2-2

署名:____________ 印

相続人 丙 住所:〇県〇〇市〇〇町3-3-3

署名:____________ 印

公正証書作成の証

上記協議書は、令和〇年〇月〇日、〇県〇〇市の〇〇公証役場において、公証人〇〇〇〇により公正証書として作成された。

公証人 ________________(署名・押印)



生前と死後の事務委任

生前事務委任


生前事務委任の役割

 生前事務委任とは、本人の判断能力や身体機能が低下した際に備えて、生活上の各種手続きを信頼できる人に委任する契約です。
 委任できる業務は幅広く、たとえば銀行での手続き、家賃や公共料金の支払い、保険金の請求、病院や介護施設への入所手続き、介護サービスの契約などが含まれます。

 生前事務委任契約を結んでおくことで、身体の調子がすぐれない時でも必要な手続きをスムーズに代行してもらうことができ、判断力の衰えから財産を浪費するというリスクを軽減することができます。
 家庭裁判所を通す成年後見制度では対応できないようなケースにも柔軟に対応でき、本人の意思に沿ったサポート体制を整えることが可能です。


生前事務委任で行える事
  • 介護サービスの利用手続きやケアプランの調整
  • 入院や転院の手続き、および医療機関との連絡対応
  • 財産管理(預貯金の管理、支払い代行など)
  • 日常生活のサポート(買い物、生活費の管理、役所手続きなど)
  • 賃貸契約の更新・解約や施設入居の契約手続き
  • 各種契約(公共料金、携帯電話など)の変更・解約手続き
  • 郵便物の受け取り・転送や連絡先の管理
  • ペットの世話や引き取り手続き
  • 親族・関係者との連絡調整

生前事務委任の注意点

 生前事務委任契約には、いくつかの問題点が存在します。
 その中でも特に重要なのは、信頼できる人物を受託者として選ぶことと、契約時に委任者が十分な判断力を有していることです。生前事務委任は、委任者が自分の意思で特定の事務を他者に任せる制度ですが、信頼関係が成立していない場合、不正利用や誤った意思決定が行われるリスクがあります。
 不正行為を防ぐため、生前事務委任を複数の受託者と結ぶことで、一方の受託者に財産管理を、別の受託者に財産処分を任せるようにする事も出来なくはありません。しかし、こうした形にすると契約内容が複雑になり、本来の役割がぼやけてしまう事もあります。


生前事務委任の問題点
問題点詳細
委任者の意思が不明瞭になる可能性委任者が病気や認知症で、すでに意思表示ができない場合、その意思が不明確になり、契約の有効性自体が問題になります。
不正利用のリスク委任された者が不正に委任者の権限を行使し、財産を不正に処分する可能性があります。
委任者の健康状態の変化に対応しづらい健康状態の変化により、委任内容が適切でなくなる可能性があります。
法的効力の問題委任内容が不明確または法的に認められない場合、後の手続きで法的問題を引き起こす可能性があります。

生前事務委任の契約書


 生前事務委任契約を作成する前に行うべきは、自分が委任したい具体的な事務内容を整理することです。たとえば、通院や入院の手続き、介護サービスの申請、財産管理、各種支払い手続きなど、将来的にどのような手続きを任せるかをリストアップします。
 委任者が契約内容を主体的に決定し、その後、受任者と現実的なすり合わせを行い、実効性のある契約に仕上げていくのが望ましいです。


 生前事務委任契約における受託者は、将来的に委任者の判断能力が低下したり、体調不良に陥った場合に実際に事務を代行する人物です。受託者として適任なのは、家族や親族、信頼できる友人などですが、重要なのは受託者が事務を遂行する能力と意思を持っているかどうかです。
 受託者が事務を適切に進めるためには、契約内容の理解や実行力が必要となります。また、万全を期すためには契約を公正証書化し、契約の内容を親族や家族に伝えておくことも効果があります。


 契約書には、項目ごとに「どのような場合に・誰に・何を・どのように」任せるかを明記します。


生前事務委任契約書
項目 内容
契約日 令和〇年〇月〇日、契約が成立した日
委任者 委任者は山田 太郎(東京都〇〇区在住)であり、日常生活に関わる事務を受任者に委託する
受任者 受任者は佐藤 花子(埼玉県〇〇市在住)であり、委任者から依頼された事務を実行する責任を負う
委任の範囲

委任者が受任者に委託する具体的な事務の内容は以下の通り:

  • 委任者が治療を必要とする時:医療機関への通院手続きおよび医療費の支払い
  • 委任者が介護認定2を受けた時:介護施設の利用契約および介護サービスの申請および介護サービスで足りない身の回りの補助
  • 委任者の親族から依頼を受けた時:財産管理(預貯金の管理、各種支払いの代行)
  • 委任者から直接依頼を受けた時:公共料金(電気・ガス・水道等)の変更・解約手続き
報酬 受任者への報酬は金〇万円であり、契約時に〇万円、実行時に〇万円を支払う
契約の終了 次の時に、契約は終了する
委任者が希望した場合および委任者が死亡した場合
その他特記事項 本契約に基づく受任者の業務については、山田 次郎(千葉県〇〇市在住)を監督者とし、受任者の業務遂行状況を定期的に確認するものとする
監督者は、受任者の行為について疑義がある場合、委任者または必要に応じて公的機関に報告できるものとする
受任者は、監督者からの照会に誠実に対応し、必要な情報を開示する

死後事務委任で出来る事


死後事務委任の目的

 死後事務委任契約とは、本人の死後に必要となる各種手続きや実務を、あらかじめ指定した人に委任する契約です。
 委任できる業務は多岐にわたり、たとえば病院や介護施設への支払い、死亡届の提出、火葬や納骨、住居の明け渡し、公共料金の解約などが含まれます。

 死後事務委任契約を結んでおくことで、遺言書では対応できない「死後の事務」をカバーでき、残された家族や友人に過度な負担をかけずに、本人の意思に基づいた対応が可能となります。


死後事務委任で出来る事
  • 死亡診断書の身元引受人記名や火葬許可証の取得
  • 通夜・葬儀・告別式の手配および費用の支払い
  • 火葬・納骨・埋葬の手続き
  • 医療機関や介護施設への入院・滞在費用の精算
  • 賃貸住宅の明け渡し・遺品整理・不用品の処分
  • 公共料金や各種サービス(電気・ガス・水道・携帯電話など)の解約手続き
  • 金融機関口座の解約や未払い金の清算
  • 年金・保険・行政手続き(健康保険や介護保険など)の届け出
  • ペットの引き取りや世話の手配
  • 親族・友人・関係者への死亡通知や連絡対応

 例えば、一人暮らしで犬を飼っており、死後にペットが行き場を失うことを懸念しているような場合、生前に親しい友人と話し合い、死後事務委任契約に犬の引き取りと飼育継続を明記すれば、死後も友人がスムーズに犬を迎え入れるような事も可能です。


死後事務委任|契約書の作成


死後事務委任の準備

 死後事務委任契約は、多くの場合「自分の死後に迷惑をかけたくない」という思いから始まります。高齢者や単身者だけでなく、家族と離れて暮らす人にも広く活用されています。まず行うのは、自分が死後に委任したい事務内容の整理です。医療費の支払いや火葬手配など、依頼したい内容を具体的にリストアップし、どこまで第三者に任せるかを明確にしていく作業が出発点となります。


 受任者は実際に死後の事務を実行してくれる存在です。家族や親族、または信頼できる友人などが候補となります。重要なのは、事務を遂行する能力と意思があるかどうかです。契約内容だけでなく、葬儀や遺品整理の希望や情報を共有しておくことで、実務時の混乱を防げます。


 依頼内容が決まったら、それを文書に落とし込んでいきます。項目ごとに「誰に・何を・どのように」任せるかを明記することで、実効性が高まります。契約書は原則として私文書で問題ありませんが、トラブル防止のためには内容が明確であることが重要です。A4数枚程度にまとめ、署名・捺印を両者が行います。場合によっては公正証書化を選ぶこともあります。


項目 内容
契約日 令和〇年〇月〇日
委任者 〇〇 〇〇(東京都〇〇区在住)
受任者 〇〇 〇〇(埼玉県〇〇市在住)
委任の範囲
  • 死亡届の提出、火葬・納骨の手続き
  • 病院や介護施設への未払い費用の支払い
  • 公共料金・携帯電話などの契約解約
  • 住居の明け渡しおよび遺品整理
  • ペット(犬など)の引き取りと飼育依頼
報酬 金〇万円(契約時に〇万円、実行時に〇万円)
契約の終了 委任者の死亡および業務完了をもって終了
その他特記事項 本契約は公正証書により作成する

死後事務委任の実効性


細かな指示と実効性

 死後事務委任契約の実効性を確保するためには、契約書に記載された内容が具体的であることが重要です。たとえば、「葬儀の手配」とだけ記載するのではなく、具体的な葬儀の形式や希望する業者名、費用負担の方法まで細かく明記するようにします。詳細な記載をすることで、受任者が正確に業務を遂行でき、トラブルを防ぐことができます。曖昧な部分があれば、契約の効力が薄れるリスクがあります。


 作成した死後事務委任契約書は、本人と受任者の双方が1部ずつ保管します。また、契約の存在を第三者にあらかじめ知らせておくことは、死後事務の実効性を高める事につながります。
 たとえば、病院や介護施設、賃貸住宅の大家など、関係する機関や人物に「死後事務委任契約を締結している」旨を伝えておくことで、本人が亡くなった際に速やかに受任者へ連絡が届き、対応をスムーズに進めることが可能となります。
 死後事務委任契約は一度作成すれば終わりというものではなく、生活環境の変化や人間関係の変動に応じて、契約内容の見直しや受任者の変更が必要になることもあります。


墓じまいと改葬

墓じまいの準備


お墓について

 お墓は「祭祀財産」という税金が掛からない財産になり、相続財産とは別の扱いになります。その為、相続放棄をしても、原則として「承継」という形で誰かが引き継ぐことになります。
 お墓を承継した祭祀財産管理者(承継者)が墓じまいを行う人となりますが、承継者が誰なのかはっきりとせず、承継者以外の誰かがお墓の管理を行っているような場合もあります。
 お墓の大きさにもよりますが、通常は最大で8~10骨ほど納骨できる作りになっており、だいぶ前のご先祖が葬られているケースもあります。


墓じまいの前準備

 先祖代々が葬られているお墓には、現在の承継者だけでなく、親族全体が関係してきます。
 たとえば、長年にわたり管理費や檀家料を支払い続けてきた承継者が「墓じまい」を検討する場合、その決定が一人だけの判断で行われてしまうと、他の親族との間で感情的な対立やトラブル招くこともあります。
 遠方に住んでいる親族や、普段あまり交流のない親戚であっても、「先祖の供養」や「家の伝統」に強い思いを持っていることがあります。このような場合は、墓じまいではなく、寺院等を通して「承継者の変更」として話を進めた方がよりスムーズに問題を解決できます。
 合意が得られた後は、現在の墓地を管理している寺院や霊園の管理者と相談し、遺骨の移転先となる改葬先や、散骨・永代供養といった供養方法について検討を開始します。


お墓の名義変更(承継者変更)

 墓じまいをせずに、他の親族にお墓の承継をお願いする場合には、寺院や霊園の管理者を通じて名義変更の手続きを行ます。
 寺院にお墓がある場合、承継者が新たに檀家となることを求められることが一般的です。また、公営霊園などでは、管理規則によって承継できる親族の範囲があらかじめ限定されていることが多くあります。
 名義変更に必要な条件や提出書類(たとえば戸籍謄本や遺言書など)は、施設の種類や管理者ごとに異なります。


墓じまいの手続きと費用


お墓じまいの流れ

 墓じまいにおいて最も負担となるのは墓石の撤去です。また、改葬をする場合は新たなお墓探しに時間やエネルギーを費やすことになります。


お墓じまいの手続き
Step 1:親族間の話し合い


親族との合意形成とお寺や霊園管理組合への問い合わせ

お寺によっては利檀料が必要となる場合があります。また、閉眼供養やお布施についても必要に応じて確認しておきます。
今後必要となる書類として、お骨が埋葬されている事を証明する「埋葬証明書」の発行を依頼します。

Step 2:お骨の移し先の確保


改葬先の選定または自然葬や散骨の手配

改葬先の選定では、購入費や年間管理料、永代供養などの要件を確認します。状況によっては、公営墓地への埋葬や散骨等も選択肢に入ります。
散骨を選択する場合は、「改葬許可証」は必要ありません。

Step 3:自治体での手続き


別のお墓に移す場合は、改葬許可の取得

別のお墓への移動(改葬)は、埋墓法で旧お墓の自治体で「改葬許可証」の取得が決められています。また、改葬許可証の取得には、新しいお墓側が発行する「受け入れ証明書」と、旧お墓のお寺や管理者が発行する「埋葬証明書」が必要になります。
「改葬許可証」の取得は、新しいお墓が決定してから行います。

Step 5:工事業者への見積もり依頼


古いお墓の更地の見積もりを出します。お墓の区画番号の他、実際の構造物の写真や、墓石サイズや墓地面積が分かる簡単な図面、お寺や管理者の名称、駐車場からお墓への通路の状況などを伝えます。
見積もりは依頼は複数業者に対して行い、比較検討のうえ決定します。
また、お寺の閉眼供養を経ないと更地化の工事を行わない工事業者や、お寺で業者が指定されている場合もあります。

Step 4:お骨の取り出し


必要に応じて、旧お墓での閉眼供養と、新しいお墓での開眼供養を検討します。その後、改葬の場合はお骨の取り出しと移動を行い、散骨等をする場合には、事業者に依頼をします。


お墓じまいの費用(目安)
費用項目 内容 目安金額(参考)
離檀料・お布施 ・お寺との縁を切る際のお礼
・閉眼供養や読経料などを含む場合もあり
3万~20万円
改葬先の費用(供養方法による) ・永代供養墓:永続的、または10年単位で管理してもらう合葬墓
・樹木葬:合葬墓タイプもあり 自然の中での埋葬は要条例確認
・納骨堂:都心部に多く見られる ロッカー式や自動搬送型など
・散骨:海・山への自然葬 要条例確認
永代供養:10万~50万円
樹木葬:10万~30万円
納骨堂:20万~100万円
散骨:5万~20万円
役所手続き関連 ・改葬許可申請(基本無料)
・証明書発行、郵送代など軽費用がかかる場合あり
0円~数千円
閉眼供養(魂抜き) ・僧侶による読経供養(お布施として渡す)
※離檀料とは別に扱われる場合あり
3万~5万円
墓石撤去・更地化工事 ・墓石や外柵の解体・運搬・廃棄
・残土処理、植木伐採が必要な場合もある
10万~50万円(㎡単価:2万~5万円)
お骨の取り出し・移送費 ・遺骨の取り出し、梱包、配送や持ち帰り
・粉骨(1万~3万円)も検討 ・ゆうパックでの輸送可能
0円~5万円
その他(交通費・香典返しなど) ・法要参列者へのお礼や返礼品
・お墓参り時の交通・宿泊費など
ケースによる

お寺との交渉

 墓じまいに伴い、檀家をやめる際には離檀料が発生することがあります。これは必ずしも法律で義務付けられているわけではありませんが、慣習として求められることがあり、相場としては5万〜20万円程度です。寺院によっては不要な場合もありますが、高額を求められる例もあります。また遺骨の移送について、自身で運搬する事が難しい場合は、ゆうパックの利用も可能です。


改葬許可申請の手続き


改葬時に必要な行政手続き

 改葬を行う際は、改葬許可証の取得が必要です。新しく用意した墓地の所在地が他県であっても、改葬許可は元の埋葬地を管轄する役所に申請する必要があります。


 申請の際に、新たな納骨先の受け入れ証明が必要になります。また、旧墓地側による埋葬証明書が必要になる場合もあります。

 改葬許可証は、お寺や管理者によって台帳として管理されるもので、その台帳保管自体は法令の決まりはありません。現実的なルールとして、お寺や管理者側では提出を必須としています。


改葬許可証手続きに必要な書類
提出書類発行者
改葬許可申請書申請者本人が作成
埋葬の事実証明書現在の墓地の管理者
受入証明書改葬先の管理者

 書類が整ったら、現地の自治体窓口に申請します。本人または代理人が直接窓口に出向く必要がありますが、一部自治体では郵送での手続きも可能です。


 改葬先が納骨堂や他の墓地であれば手続きは比較的明確ですが、個人の敷地内への納骨や、将来的に散骨を予定している場合には改葬許可が下りないケースもあります。行政の立場からは「適切な管理がされること」が重視されるためです。こうしたケースでは、改葬ではなく一時的な「遺骨の保管」として扱われることもあります。

 「遺骨の保管」を行う場合、墓埋法での決まりは無い為、行政への申請は不要です。


永代供養・散骨・樹木葬


永代供養について

 お墓の継承者がいない、あるいは子どもに負担をかけたくないという理由から、伝統的なお墓以外の埋葬方法を選ぶ人が増えています。寺院や霊園が遺骨の管理・供養を引き受ける形式の永代供養は一定の人気があります。

 永代とはついていますが、一定期間(たとえば33回忌まで)は個別で供養し、その後は合祀墓に移されるというようなパターンなどその内容は様々です。年間の管理費も通常のお墓と変わらないものもあり、経済的な負担の軽減よりも、気持ち面の負担を少なくしたいという理由から選択される方が多いようです。


永代供養のパターン
  • 個別安置型:一定期間は個別の納骨スペースに安置、その後合祀
  • 合祀型:初めから他の遺骨と一緒に埋葬
  • 納骨堂型:屋内施設でロッカー式などの個別管理
  • 樹木葬型:墓石の代わりに樹木を墓標とし、自然に還るスタイル。個別・合祀の両方あり

自然散骨について

 「散骨」は、自然葬の一種で、遺骨を粉末状にして海や山に撒く方法です。法律で明確に規定されているわけではありませんが、「節度をもって行う限り違法ではない」とされています。

 散骨をサービスとして提供している事業者も多数存在し、利用しやすくなってきています。ただし散骨には、改葬許可を得る際に受入先がないため「一時保管」として扱われたり、親族間で意見の食い違いが生じたりすることもあります。また地域によっては条例で散骨が制限されていることもあります。


樹木葬について

 「樹木葬」は、墓石の代わりに樹木を墓標とする埋葬方法です。都市部郊外の霊園でよく見られる永代供養墓の一形態です。

 霊園が提供しているもの以外で、本当に自然の樹木を墓標とし使用することは、法令上の壁がある為、自分が所有権を有する土地を除いて実質的に行えません。


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